【中小企業とIoT】

梅雨入り間近の6月初旬、多摩IoTフォーラムの活動の一環で、青梅市の武州工業株式会社に訪問見学の機会をいただきました。
同社は、IoTを先駆的に活用している中小企業として高く注目されており、「攻めのIT経営100選」や「はばたく中小企業300」にも選定されています。
この日は、林英夫社長からとても貴重なお話をお伺いすることができましたので、簡単な訪問レポートとしてまとめさせていただきます。
(※内容については林社長に事前のご確認と開示のご了承をいただいています。)

武州工業株式会社は、昭和26年創業の自動車用熱交換器パイプ、および板金部品の製造を行なう従業員160人ほどの会社です。
青梅から世界へ、を合言葉に、日本に根差しながらグローバル市場でコスト競争力ある高品質な製品を生産し供給しています。
同社のローコストなものづくりを実現するカギになっているのが、1987年から導入し改善し続けている「一個流し生産ライン」。
この一個流し生産ラインでは、生産から検査までを一人の従業員が担います。
同社に検査課という組織はありませんので、生産した商品は原則としてそのまま出荷されることになります。
部品を一つ生産するたびに検査を行うことで全数品質保証を実現する、同社の競争力の源泉となっている仕組みです。

そして、この仕組みを下支えするのが、一つには多能工化であり、もう一つが設備の自社開発への取り組みです。
特に後者は、生産性と品質を向上させるための設備や治具を、従業員自ら考え、工夫して整備していく、それにより道具を使う腕前も向上していく、という同社にとってとても重要な基盤となっています。
自律性が大切になるこの考え方を、林社長は「ラーメン屋スタイル」と説明されました。
つまり、一人一人が一軒のラーメン屋の店主としてラーメン一杯に責任を持つ。スープだけ作る人、盛り付けだけする人、と分業するのではなく、仕込みから道具の準備や整備まで含めて製品一つの完成に最初から最後まで責任を持つ。
道具を作り(自社設備開発)→人に任せ(多能工)→人を信頼する(一個流し生産ライン)、そういった打ち手の連鎖によって、自動車部品という長期の商品供給が求められる取引でも品質保証し続けられる仕組みが実現されているのです。

IoTは、まさにこの自社設備開発という観点で利活用が進められていました。
当日見学した、iPod touchを工作機械に取り付け、内蔵の振動センサーによって機械の動作を検知して生産個数をカウントする仕組みも社内で構築したもの。
計測されたデータは時系列に展開され、生産の“ペース”が可視化されることで、“店主”は計画と実績との差を生産途中で自ら確認しながら作業を進めていくことができます。
他にも、製造工程の最終段階で利用するカメラ画像解析による検査装置も、同社独自仕様で開発するなど、いずれもが、一個流し生産ラインを支える大切な道具となっています。

訪問を終えて強く印象に残ったのは、“一つ一つの打ち手がバラバラではなく、一貫性があって全体として整合している”という点です。
IoTの事例というと、どうしてもセンサーの機能や蓄積されたデータの可視化方法に関心が行きがちですが、やはり、IoTは手段であって目的ではないんですね。
同社はまさにそれを実践していて、そもそもどういう経営をしたいのかという経営理念が先にあり、それを実現する幾多の打ち手があって、その中にIoTやITが位置づけられている。
それ故に、打ち手同士が自然と相互に有機的に連鎖し合ってさらに全体の仕組みを強靱にしていく。IoTという新しい技術もしっかりと“なじんで”いる。
主客が明確であると、迷いなく、覚悟を持って投資することができるんですね。

以上

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「多摩IoT Forum(TIF)通信」に寄稿したバックナンバーを許可をいただいて転載しています。
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