アレクサのスキル、作ってみました。

このコラムでも何回かご紹介しているスマートスピーカー。
中長期的にみれば大いに可能性のあるデバイスと評価していますが、
いまのところは、もっぱら音楽を聴く道具に甘んじている現実があります。
自らプログラミングできる技術があれば、あるいはその技術を買えるお金があれば、
データベースと連携して在庫確認したり顧客情報を検索するなど、今すぐにでも仕事に利用できるわけですが、
多くの中小企業にとっては少なからずハードルがある。
もっと簡単に、ちょっとした工夫をすれば現場でスマートスピーカーを活用できるような方法はないものか・・。

そんな思いを抱いていたある日、日経産業新聞の一面記事が目に飛び込んできました。
『AIスピーカー、私も「中の人」 アプリ作ってみた
「「アレクサ!」でおなじみの米アマゾン・ドット・コムのAI(人工知能)搭載スピーカー。
ある日、取材先からとっておきのサービスがあると売り込みがきた。
ド文系でもスピーカーの「中の人」を作れる技術を開発したという。
そういえば先輩記者が使いこなせず、デスクの隅に置き去りのAIスピーカーがあった。
ほこりを払い、早速、東京・目黒のアマゾン・ジャパン本社に駆け込んだ。』
(出所:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39260250R21C18A2X11000/)

そうそう、これこれ。これならできるんじゃね?
早速、記事で紹介されていたアマゾン・アレクサの“スキル”(機能のこと)を簡単に作成できるツール
「NOID」を利用してみることにしました。
https://www.noid.ai/

スマートスピーカーの最大の利点は、スイッチを押したり、ディスプレイをタップしたりすることなく、
声だけで操作できること。例えば、手袋をしての作業中や機械の操作中に活用できる。
そこで、手が離せない仕事をしている最中に業務マニュアルをスマートスピーカーで聞く、
そういう利用シーンを想定したスキルを試作してみました。

こちら  「アレクサ、注意事項を教えて。」
アレクサ 「仕事の注意点をお教えします。何について聞きたいですか?」
こちら  「ブルーベリーの剪定」
アレクサ 「ブルーベリーの剪定ですね。ブルーベリーはまず太い枝の本数を減らすことから始めます。
      その次に、枝が重なり合わないように間引き剪定をし、最後に花芽の数を減らします。」

これ、全て私がパソコンで文字入力してちょちょっと設定しただけ。一切プログラミングしていません。
そうなんです。別にAIといってもアマゾンがブルーベリーの剪定方法を教えてくれるわけではなく、
こちらが入力した文字列を音声で読み上げてくれるだけの話。
受け答えを事前に入力しておけば、それを音声コマンドで聞くことができる、というわけです。

例えば、品番ごとの製造上の注意事項を確認するとか、機械のメンテナンス上のチェックポイントを確認するとか、
失敗してしまいがちなノウハウを確認するなど、会社で蓄積したノウハウを働く現場でシェアしてスキルの底上げに利用する、
そんな使い方が考えられます。

ファイリングされたマニュアルはあるけど、現実にはなかなか開いて確認できない、現場では広げにくい、
そのために手を止めなければいけないので生産性が落ちてしまう、
そういった現場には、スマートスピーカーを活用することで業務効率化の可能性があるのではないでしょうか。
ちなみに、アマゾン・アレクサのディスプレイ付きのモデルを利用すると、なんと動画の再生もできてしまうんですね。

今回作成したスキルのデモンストレーション動画と設定画面を以下に掲載しておきましたので、
よろしければ見てみてください。

起動の様子です。少し録音の音量が小さいかもしれませんがご容赦ください。

NOIDの設定画面です。
「注意事項教えて」というコマンドで起動し、会話のやりとりを設定します。
今回は「ブルーベリーの剪定」についてのやりとりだけを設定しましたが、「りんごの剪定」などのように、この組み合わせを増やせば、様々な問答を設定できるというわけです。

最後にAlexaの開発者画面から実機テストをして公開手続きをします。

とある秋晴れの日。

東海道新幹線を掛川駅で降り、在来線に乗り継いで袋井駅で下車。
人影まばらな南口のロータリーから先頭のタクシーに乗車すると、
どうやら運転手さんはぽかぽか陽気で居眠り混じりだった様子。
行き先を告げ、タクシーが田園地帯にするすると走り出す。
心地よい揺れに身を任せ、まったりとした空気の中、
ありがちな助手席のヘッドレストにかかる広告にぼんやり目を向けると、
ふと「楽天ペイ」の文字に目がとまりました。

皆さんはご存知ですか、「楽天ペイ」。
最近流行り始めているモバイル決済サービスの一つで、
スマホ一つあれば代金の支払いができてしまうキャッシュレスサービス。
中国はその先進国で、すでにモバイル決済の普及率が98%を超えているそうですが、
彼の地でシェアが高いのが「アリペイ/ALIPAY/支付宝」と「ウィーチャットペイ/WeChatPay/微信支付」。
日本へのインバウンド旅客対策として空港や土産物店でも少しずつ導入が進んでいるので、
その名前を見た、聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。

ITコンサルタントという職業柄もあり、これはぜひ試してみようと睡魔を振り払い、
スマホに楽天ペイアプリをインストール。
決済用のクレジットカードが登録されているいつもの楽天アカウントでログインすれば、はい、準備完了。
目的地に到着し、60歳代とおぼしき運転手さんに楽天ペイ支払いをトライしたいと告げると、
予想通り運転手さんにとっても初めての客とのこと。
件の助手席ヘッドレストの広告にはバーコードが印刷されていて、それを楽天ペイアプリで読み取ると、
なるほど、そのタクシー会社の名前が表示される。
そのままタクシー代金を自分で入力し、決済完了をタップ、その画面を運転手さんに見せれば万事OK。
うーん、なんと簡単なことか。シンプルで早い。
元来心配性の私は、タクシーを降りる際はいつも、サイフを持ったかな、スマホは忘れてないかな、
上着も抱えなきゃと、と多数のチェック項目をこなさなきゃならず、なんとも慌ただしい時を過ごすんですが、
これは釣銭やレシートのやりとりもなく、スマホ一つでまさにスマート。

IT業界の傾向として、最近はこのように個人の生活シーンから新しいITサービスがお目見えすることが増えてきました。
一昔前は会社でパソコンを使い始め、その後しばらくして価格が安くなってから自宅用に購入する、
といったように“会社→個人”という流れが当たり前でした。
それが、iPhoneとか、最近だとドローン、VRグラスや360度カメラ、スマートスピーカーなんかも典型的ですし、
SNSもそうですが、世の中に個人向けのIT製品サービスが先陣を切って登場し、個人が最初に使い始める。
会社は置いてきぼりで、会社よりも個人の方がよほどITを使いこなしたりする時代になってきた。

この、個人先行で使われ始めた最新ITを会社でも使おうよ、
例えばSNSをマーケティングで使う、タブレット端末を業務で使う、ドローンをプロモーションビデオの撮影に使う、
なんていう動きを「コンシューマライゼーション」と言います。

― コンシューマライゼーションとは、企業の情報システムで一般消費者向けのIT製品やサービスを利用すること。
  また、IT関連製品や技術の進歩・革新を一般消費者向け分野が主導し、
  企業向けIT分野がそれを後追いして取り込むようになる傾向のこと。 ―
  (出所:http://e-words.jp/w/コンシューマライゼーション.html)

どんどん便利になっていくツールを仕事でも使わない理由がない、というわけですが、
IoTの分野も多分にこういう傾向があります。
アマゾンDASHボタンを使って職制呼出をしたり、スマートスピーカーであんどん表示の切り替えを行ったりしている旭鉄工様、
Sony製のMESHというセンサーキットを使ってプレス機の稼働回数を記録している石原金属化工様、
GoogleHomeで薬局の在庫問合せをしている薬局お茶の水ファーマシー様、
Googleの画像認識AIを使ってキュウリの自動等級仕分けをしている静岡県の農家さんなどなど。

まあ、いきなり画像認識AIなんてハードルが高すぎますが、
そういう個人が使うITに“興味を持ってみる”ことは誰にでもできることではないでしょうか。
興味・関心を持って情報に触れ、実際に五感で体感したりすることで、
「もしかしたら仕事に役立つかも」という気づきが生まれる。
「だったらこんなこともできないかな」とアイディアが膨らんでいく。
日頃からそんな気持ちで新しいITサービスに触れていただくのが、実は、IoT/IT活用の早道なのかもしれません。

○○をやってみた。(ユーチューバー風に)

先月、ちょっと大きなイベントを開催する機会を得ました。
静岡県浜松市で10月24日に行ったそのイベントは「コメづくりのための農業ICTカンファレンスin静岡」。
筆者が参加する農業ICTに関するコンソーシアムが主催者となり、
静岡県内外から、農業者、行政機関、民間企業など、236名もの方にご来場いただく、大盛況のイベントになりました。

イベントのテーマは、その名の通り、お米づくりに役立つスマート農業。
水田センサーや水田への自動給水装置、ドローン、ほ場管理システムから、
水田エリアのネットワークインフラとなるLPWAなどの通信サービスまで、
稲作農業者のためのスマート農業製品サービスを集めた講演会と展示会です。

駅前の立地の良いホールを予約し、さあ、何人来ていただけるかとドキドキ、ワクワク準備をして当日を迎えたらなんと満員御礼。
一般的なICTでもなく、農業ICT全般でもなく、お米作りに特化したICTのイベントで、
しかも、のぞみが停車しない浜松市(すみません・・)で開催されたイベントにこれだけの人が集まったのは、かなりの熱量が世の中で動いていることの現れ。
奇しくも、TBSの日曜劇場「下町ロケット」では、これから農業を舞台にしたストーリーが展開するそうですが、一つの時代の変化を感じずにいられません。

さて、講演会は農水省の研究専門官の基調講演からスタート。
日本の農業と農業ICTの課題認識や行政の方向性など大きな流れをご説明いただき、続いて、我々コンソーシアムから事業報告を行いました。
この事業では、静岡県袋井市と磐田市に合計400台もの農業IoTデバイスを配置して実証研究を行っているのですが、
これだけの量の機器を農業者が利用してみてはじめて分かったことや気づいたこと、課題などを赤裸々にご紹介しました。

続いて出展各社によるショートプレゼンテーション。
各社製品の紹介をいただきつつ、同様に、各社の製品の利用現場ででてきた課題や解決策をご披露いただき、
なるほど、課題は一つではないし、解決方法もいろいろな切り口があるんだなあと大変勉強になりました。

パネルディスカッションでは、静岡県以外の地域で行った実証試験からのフィードバックがあり、
青森県ではお米とリンゴの複合経営、愛知県ではお米とイチゴ、高知県ではお米とショウガ、大阪府では棚田の環境保全的なお米栽培といった、
各地様々な経営事情の下での水田センサーの活用とそこから得られた気づきをご披露いただきました。
同じ水田センサーを使っても、水位を重視するのか水温を重視するのかなど、個々の経営事情によって使い方は様々であることがわかりました。

全体を振り返ってみると、共通していたのは、「□□であるべき」とか「△△という技術は役に立つはず」ではなくて、
「○○をやってみた」という実践結果のフィードバックが中心だったということ。
実践経験の中でのみ得られる課題や、現場で使ってみてはじめて引き出される真に役立つノウハウ。
展示会場でもそういった具体的な話題について来場者と出展社が意見交換をしていました。
導入の手順、工事方法や工期、必要な道具、運用方法や製品の細かな使用方法などなど。

そういえば、先日行われたTIF(多摩IoTフォーラム)の第三回ワークショップでも同じような気づきがありました。
先駆的にIoTに取り組まれている企業様に事例発表をしていただいたのですが、実践されている方のお話しは抽象的ではなく具体的。
一つ一つの説明や解説が一般論ではなく実践経験に裏付けられた各論のお話しなので、頭にすっと入ってくる、わかりやすい。
そして、やってみようという気になりやすい。「私はこうしました。」という説明のなんと力強いことか。

世に出た新しい技術を右から左にそのまま利用できるかというと、農業や中小商工業ではすんなりとはいかない。
ヒトモノカネのリソースが限られているし、何より現場がきわめて多様。
どうやったら上手に使いこなせるのか、範囲や手順はどうか、そういった“適合方法”を探っていくプロセスが不可欠。
先進事例を学びつつも、最終的には自社にフィットする方法を探らなければ効果を出し得ない。
ICTをどう使いこなすか。「○○をやってみた」という“使いこなしの研究”が実は大切なステップなのかもしれないと最近感じています。

この4年のIoTの進化を振り返る(2)

前号に続いて、この4年間のIoTの進化を振り返ってまいりましょう。

ご存知の方も多いかと思いますが、街の駐車場やコインランドリーは、すでにその多くがIoTでネットワーク化されています。
駐車場の空き状況はスマートフォンでチェックでき、
洗濯機・乾燥機の稼働状況、売上データは遠隔地からリアルタイムに把握できるようになっています。
飲食店ではセルフオーダー端末が驚きなく受け止められるようになり、
さらには、席にいながら電子マネーやクレジットカードで支払いが済ませられるセルフレジ端末も登場してきました。
倉庫業や旅館業ではスタッフの動線を把握して業務を効率化したり、
空港や地下鉄駅では音声同時翻訳機能がついた拡声器が利用されるようになり、
バスやトラックはデジタコで運行状況が把握できるだけではなくドライバーの健康状態の把握も可能となっています。
このように、どこまでがIoTなのかという議論はついて回りますが、私たちの身近なところでIoTの活用が進み始め、
いわゆる“スマートソサイエティー”が到来しつつあるような昨今かと思います。

さて、こういった小売・サービス業でのIoTですが、中小規模の会社や商店ではどの程度活用されているのでしょう。

身近なところで仲間のITコーディネータが支援したケースでは、
来店者がお店に近づくと、人感センサが反応してモニターに販促用の映像を流す“電子ショーウィンドウ”を導入した商店があります。
こちら、高額なシステムを導入したわけではありません。
使わなくなった旧機種のスマートフォンに人を検知することができるカメラアプリをインストール。
そこからのトリガでパソコンの映像データをモニターに投影しているだけの安価な構成なんですね。

私の支援先の産業廃棄物処理業では、フォークリフトの動線解析を行いました。
利用したのはこれまたスマートフォンのランニングアプリ。
これをポケットに入れてフォークリフトに乗れば、フォークリフトの一日の稼働時間・不稼働時間や動線が一目瞭然にわかる。
このデータを元に業務手順と作業動線の改善を行って生産性向上を実現しています。
フォークリフトの運用状況はこれまでも感覚的にはわかっていたわけですが、
データとして可視化されたことが、見直しに着手する後押しとなったのです。

これは従来からある技術ではありますが、支援先の洋服お直し業では、
これまでバーコードでお預かり品のトレーサビリティーを管理していましたが、RFID方式に入れ替えるシステム更新を行って大幅な業務改善を実現しています。
一つ一つ読み取るバーコードと、一括読み取りができるRFID。設備投資はかかりますがやはり効果は絶大なようです。
そういえば、最近では金属用のRFIDラベルも登場しているそうですね。

同じ企業が運営している仙台の保育園では、
保育士による乳児の見守り業務をサポートするためのIoTデバイス「べびさぽ」をITベンダーと共同開発して利用しています。
うつぶせ寝の状態などを画像分析して検知するという本格版ですが、
その通知を、色が変わるスマートライトに伝え、色の変化で保育士に情報を伝達する仕組みがなんとも優しさを感じます。

現場本位で作られた保育園の乳児見守りIoTシステムとは?


https://www.tripodworks.co.jp/product/babycare-support/

スマートホームの分野で注目されている鍵がIoT化されたスマートキー。
いくつものスタートアップが事業化に取り組んでいる分野でもありますが、福岡市の従業員40人の不動産会社では自社でサービス開発して活用しているようです。
しかも、構想は10年以上前の話だったとか。先見の明ありですね。

賃貸物件の案内を顧客本位で行うには? ケータイを「鍵」にした「セルフ内覧」サービス


http://www.hayakawa-0001.co.jp/miloka.html

他にもネットで調べて見ますと、面白い事例がありました。
薬局の薬剤師さんが、「OK Google」で有名なスマートスピーカー「Google Home」を活用した音声AIによるデータ検索システムを開発されていました。
https://www.pharmacloud.co.jp/
動画がこちらにありました。いいですねー、こういうの。

そういえば、中小製造業IoTの第一人者である旭鉄工の木村社長もスマートスピーカーを業務で使っているそうですね。
「社長を呼んで」と社員が言うと自動的に電話してくれるとか。
手を使わず操作できるスマートスピーカーは現場仕事に最適ですからこれから大注目です(筆者宅でもアレクサとOK Googleの2台運用中です)。

全国のパン屋さんで続々と導入されている画像AIレジシステム「ベーカリースキャン」。
トレーにパンを乗せたまま上からの画像で種類と金額をカウントしてしまう優れもの。
http://bakeryscan.com/case/index.html
こちら、先日の展示会で見かけましたが、最近ではシール型のポイントカードの自動読み取りなどにも対応し始めたそうです。
多くのお客様が慣れ親しんで使いやすいアナログのままで自動化を追求する、そのコンセプトに共感しちゃいます。

ということで、この4年間を振り返ってみると、
製造業・非製造業にかかわらず、日本の中小企業の現場でも静かに着々とIoTによる業務効率化・サービス向上の取り組みが進んでいることがわかりますね。

——
東京都中小企業振興公社様のメルマガ「多摩IoT Forum(TIF)通信」への寄稿を転載させていただいております。

「スマート農業加速化実証プロジェクト」の横串支援

業界がざわついています。
来年度からスタートする「スマート農業加速化実証プロジェクト」のことです。
http://www.affrc.maff.go.jp/docs/smart_agri_pro/smart_agri_pro.htm

こちら、詳細は農水省HPをご参照いただきたいのですが、かなりの難易度のプロジェクト。
単に部分的にICTを活用すればいいわけではなく、生産から出荷までを一貫したICT活用による体系化というお題。
ほとんど誰もやったことがない(だから実証予算がついたわけすが)。
申請前にどれだけ体系的に横断的に情報を集め、経営に有効なプランを作れるかが重要。

公募まではかなり頭を使う部分。
そもそもどのような生産~出荷の一貫した農業経営を行うべきか、
どのようにICTを使っていくのか、
現時点ではどんなICTサービスが存在するのか、
足りない機能は何か、それをどのように埋めていくのか、
そういった全体計画が必要になってきます。

採択後は、複数のICT機器を連動して農業経営者が利用できるようにするために相互接続するのに大変な難産が予想されます。
一つ一つは独立したICTサービスですから、単に声かけて並べれば動くわけではない。
連動して利用できるのに万全になっているICTサービスの方が少ない現状なわけで、データフォーマットという単純な話しはもちろんですが、そもそもの役割分担のような全体最適思想、ここの機能連携におけるエラー時の対応などの相互コミュニケーション機能の設計などなど、全体として農業経営効果を発揮させるための調整が必要です。

農業ICTに携わって10年、日本農業法人協会も立ち上げた。
2017年からは農水省の経営体強化プロジェクトの中で、静岡県さんやIIJさん、笑農和さんと一緒に経営体の皆さんとまさにそういうやりとりをしてきた。
これは今こそお役に立てる時、そう考えまして、ちょっと相当に時間の工面が難しいのですが、こちらホームページで支援ご希望を募らせていただくことにしました。

・内容
 ICT体系化企画支援・横串コーディネーション

・費用
 有償 個別見積もり
 <お見積もり例>
 -複数回の会議参加とアイディア出し・助言 20万円~
 -ニーズ調査と計画策定、ICTベンダー調整 60万円~

・期間
 公募までの間、現地確認、関係者打ち合わせなどに対応

・募集数
 2団体限定 

要するには、複数のメーカーさんの間に立って横串の要件調整を行います、ということです。
メーカーさんにはメーカーさんの立場、事業計画があります。
発注側の農業経営体あるいは地方自治体様にも実現したいプランがあります。
1:1の事業であれば問題は発生しませんが、1:多となる今回のスキームではどうしてもスキマが生じます。
メーカーさんの立場や事業計画も尊重しつつ、共に目指せる目標を設定して事業を進めていく、
そういうコーディネーションをお任せください。

もちろん、地方自治体さんやメーカーさんにそういうことをやってくれる方がいれば当方の出る幕はありませんが・・。

詳しくはご相談ください。

この4年のIoTの進化を振り返る(1)

IoTをテーマにあれこれと書き続けてきた当コラムですが、
実は今回で24号目、丸2年を迎えることになりました。
今回は節目ということで、IoTの進化を2回にわたって振り返ってみたいと思います。

IoTという言葉に世の中の耳目が集まりだしたのは実に4年前の2014年のこと。
Googleでの検索数もグンと伸びた年です。
この年は3Dプリンターに注目が集まり、民生ドローンの草分けであるDJI社のPhantom2が発売された年でもあります。

https://trends.google.co.jp/trends/explore?date=all&q=Internet%20of%20Things

その前年2013年6月、米シスコシステムズ社は「Internet of Everything(IoE)」に関するホワイトペーパーを発表し、
文字通りあらゆるものがインターネットにつながる社会の到来を伝えました。
そして同じ年、米ガートナー社や米IDC社は300億個以上のデバイスがインターネット接続機能を持つとの予測を発表しています。
これらのプレディクション(予測)は、IoTという新しい概念を知らしめ、その成長期待に世界中を沸き立たせるきっかけとなりました。

2015年にはアップル・ウォッチが登場。
この年はIoTに関するニュースや特集がメディアで盛んに取り上げられました。
小生が「IoTと中小企業」と題したコラムを東京商工会議所様の東商ICTスクエアに寄稿したのも2015年のこと。
「大上段に構えず手軽な部分から進めましょう」という論旨ですが、
あらためて読み返してもその考え方は変わっていませんので、よろしければご一読ください。

http://www.tokyo-cci-ict.com/column/201510-02-2/

翌2016年にかけては、スマートスピーカーが各社から相次いで発売されました。
まだまだ使いこなしという面でチャレンジが必要ですが、音声という操作性には私生活でも仕事の効率化においても大きな可能性を感じさせます。
筆者が当TIFの活動に参加させていただいたのも2016年。
全国各地での中小企業向けIoTセミナーも盛んに開催された年でした。
中小製造業でのIoT活用事例として有名な愛知県の旭鉄工株式会社様での取り組みもこの頃のこと。

ところで、旭鉄工様のIoT活用についてとてもわかりやすく整理されている動画を見つけましたのでシェアしておきます。

https://www.youtube.com/watch?v=AanyOK3_yQU

筆者の立場であらためて注目したのは5:07秒前後の箇所です。
IoTセンサーの活用によって現状の生産数量が定量的に見える化された、まさにその次のことです。
「目標は1時間600個だ」
なるほどです。
現在地がわかって目標が示される。すなわちギャップがわかると、人間というのはその瞬間に「どうしたらギャップを埋められるんだろう?」
「どうやって達成すればいいんだろう?」という思考が自然と動き始めるんですね。スイッチが入るというか。
見える化の本質はここにあるんだろうと思います。
目標なくして見える化なし。

2017年にはIoTの影の部分としてセキュリティに対する警鐘が鳴らされました。
RPAの登場でAIにも注目が集まり、自分の身体を瞬時に採寸できるというZOZOSUITなんかも登場して、
未来への期待と不安が入り交じる一年だったかなと感じます。
そして2018年、つい先日には自動運転タクシーの商用運転が試験的ですが開始されました。
画像認識系のAIでは官民での活用例がどんどんと出てきています。
世界では中国深センがIT先進都市のショールームとして注目を集めています。

産業別にも見てみましょう。
筆者がIoTのトップランナーとみてウォッチしている建設業界では、
ICTや3次元データを徹底活用して生産性向上を図るi-Constructionへの取り組みが始まっています。
人手不足の切迫感が強力な推進力になっているようです。

同じように人手不足に直面している業界の一つである農業。
筆者も実際に直接関与している分野ですが、ここでも様々なIoTへの取り組みが進んでいます。
自動走行する農業機械や草刈機、水田の給水を自動化するIoT機器も実証段階から実用段階へと進んでいます。
環境センサーやドローン活用は当たり前の道具になりつつあり、作業の効率アップ、職人的ノウハウを継承するためのAIの活用も着実に進んでいます。

もちろん、大手製造業でも着々とIoT導入が進んでいるようです。いくつか参考になりそうな動画がありましたのでシェアしておきます。

日立の洗濯機工場 https://www.youtube.com/watch?v=hETltJHFneo

オムロン社 https://www.youtube.com/watch?v=60N5VmKN-fk

こうして軽く振り返るだけでも、この4年間で着実に“インターネット・オブ・エブリシング”の世界が実現してきていると言って良いかと思います。
好む好まざるにかかわらず、ベネフィットがある限り人間は新しい技術を取り入れ、よりよい生活、よりよい職場環境、高い生産性を求めていくのですね。
皆さんの会社ではいかがでしょう?
IoTの活用やトライは進んでいますか?

次号は、小売り・サービス業での活用状況にあわせて、いくつか筆者の支援先企業でのIoTへの取り組みをご紹介します。

——
東京都中小企業振興公社様のメルマガ「多摩IoT Forum(TIF)通信」への寄稿を転載させていただいております。

ビジネスチャットツールに注目しています。中小企業の生産性向上にどのように活かせるのか。

チャットツールというのは会話形式でメッセージをやりとりするソフトやアプリのことで、代表的なのはLINEですかね。
皆さんもすぐにイメージできるかと思いますが、文章だけでなくスタンプや写真のやりとりにも使える、
手軽なコミュニケーションツールです。
このチャットツールを、会社として契約して導入し、仕事専用に使おうというのがビジネスチャットツールで、
近年とてもたくさんのサービスが登場しています。

筆者個人でも、ここ2年ほどはこのチャットツールを公私ともに使う機会が格段に増えてきました。
・家族や友人とLINEで
・仕事仲間とFacebookメッセンジャーで
・プロジェクト仕事をBacklogやTeamsで
・商工会議所関係とChatWorkで

ネットで検索してみると、会社のコミュニケーションツールの定番である電子メールとチャットツールとの
違いや使い分けについて様々に解説されていますが、チャットツールの最大のメリットは2つあると思います。
1つは気軽なコミュニケーションができること、もう1つは、スマホ・タブレットで使えるということです。

電子メールって、基本的には記録に残す、ストックとしてのコミュニケーションだと思います。
何月何日のメールで連絡した通り、みたいな。
ところが、チャットは過去にさかのぼってやりとりを見返すのはとっても苦手な、フローのコミュニケーション。
残らない、流れていくんですね。だから、意識せずとも気兼ねなく、感想や印象、気づきを「会話」的に返信できる。
メールのような署名欄もいらないし、「○○様」とか「お世話になっております」とかもいらない。
なんならOKと一言だったりアイコンだったり、写真だけでも用が足りる。
どちらも情報を複数人で共有するために有効なツールですが、メールではどうしたって慎重に発言するのに対して、
チャットなら思ったこと、率直な意見も出しやすくなる、自然にフランクな会話ができる。ツールがそうさせるんですね。

そしてそのフランクな会話を、スマホ・タブレットのおかげで、現場で、現場とできる。
現場での発見、課題、問題提起、もちろん進捗報告も気軽にできるようになる。

筆者も参加している静岡での農業IoTの実証事業では、アプリの操作用に農家さんにタブレット端末を配布していますが、
最近、実験的にチャットツールであるGoogleハングアウトも追加でインストールしてみたんです。
もともとは農家さんへの一斉連絡を効率的に行えるようにという事務局側の意図での試みだったのですが、
実は思いのほかコミュニケーションが活性化してきまして、最近では農家さんから自発的に改善提案や気づき、
ちょっとした意見なども投稿されるようになってきました。
プロジェクトとしてはそういった一つ一つの生の声がとても役に立ちます。

それまで農家さんへの情報伝達は、ある窓口を経由して、なんてことになっていたので、
知らず知らずのうちにその人の手間暇を考えたりして、情報伝達の頻度を落としていたんですね。
まとめて伝えようとか。整理してから伝えよう、と。
農家さんからも、定例の会議では積極的に意見を発言してもらっていましたが、やはり、
農作業の現場での思いつきとか感じたことを後日の会議で説明しても、どうしてもパッションとか想いが薄らいでしまう。

思えば過去からの情報化って、基本的にはオフィスワーカーを対象にしたもので、
デスクに座ってPCを開いてから使うものがほとんどでした。それがスマホ・タブレットで一変しました。
現場で、現場と直接コミュニケーションできるツールが登場したんですね。

IT活用というと、生産管理システムを導入して業務フローやルールを見直して・・となりますが、選択肢はそれだけではない。
チャットというシンプルなツールによって、
今まで手にしていなかった現場のフランクな生の情報をリアルタイムで得ることができるようになる。
それは決して軽微なインパクトの話しではありません。

少し前に無人航空機ドローンが登場した時、農業界隈ではこぞって購入する動きが見られました。
何に使うかというと、農薬散布とか畑センシングとかいう革新的な話しではなく、単純に上空から畑を眺めるため。
今までは見えなかった情報が手に入る。それだけで十分意味があると。
新たな視座から新たな情報が得られれば、これまでの経験と照らし合わせて新たな発見を得ることができる。
情報化とはそういうことなんだと思います。

何のためにIoTセンサを使うのだろう?

以前ご紹介した、経産省とロボット革命イニシアティブ協議会が行った2つの調査では、
中小製造業でのIoT活用について合計60事例がまとめられ、うち38事例は各種センサを活用した事例でした。

確かに、IoTといえばセンサというイメージが強いですね。
機械の稼働状況を計測したり、温度や湿度を計測したり、振動や音を測定したり。
バイタルセンサなどでは心拍数や脳波の測定もできる。
ハイパースペクトルカメラを使うと可視光以外の情報もセンシングできる。
最近では、スマートフォンのマイクもセンサとして使われるなど、様々なセンサデバイスが登場しています。

センサによる可視化、データ化というわけですが、そもそも、データが得られると、どんな利点があるのでしょう?
ここでは、経営におけるデータの効用・意義について整理してみたいと思います。

まず始めに、データは物事を定量的に示してくれます。
日数、時間数、作業回数、生産量などについて、データは数値という切り口で表現してくれます。
「多い・少ない」「早い・遅い」という表現に対して、「10kg多い」とか「3日早い」のように、
具体的な「指標値」を提供してくれるのがデータです。
指標値が得られることで、初めてそれを他の数値と「比較」することが可能になります。
そして、他の数値と比較をすると、データに「意味」が出てきます。
過去の数値と比較をすれば、過去からの変化が浮き彫りになりますし、他の品番と比較すれば、
品番ごとの生産性の違いが確認できたりします。
つまり、データがあり、比較をすることで、変化や違いを通して日々の経営の状況を知ることができる。
経営が「見える」ようになるわけです。
経験が豊富であれば、勘と度胸で今後の見通しを判断することも行えますが、
経験が少なくても、データが経験を補って一つの判断材料を提示してくれるわけです。

次に、データは「記憶」の代わりに「記録」しておいてくれます。
人間の記憶はあてになりません。記憶は時間が経つと次第に薄れていきます。
そもそも人間の脳は、忘れるようにできているそうです。
次から次へと起きた細かな事象を全て忘れずに記憶していたら逆に生きていけないそうで、
生存に不要な情報からどんどん忘れていきます。
「エピングハウスの忘却曲線」というドイツの研究がありますが、
人は記憶した後、20分で42%を忘却し、1時間後には56%を忘却、一か月後には79%を忘却してしまうそうです。
だから、大事なこと、忘れたくないことは記録しておく。
自分の脳で記憶する代わりに、データとして記録しておくことで、
忘れることなく後からもう一度利用することができます。

最後に、データは便利に二次利用することができます。
データ化されている情報は、様々な情報処理技術のメリットを活かすことができます。

・検索が容易: 必要な情報をキーワードや時系列で短時間に探し出すことができます。
パソコンのどこに保存したか忘れてしまったようなデータも、検索すれば、コンピュータが探し出してくれます。

・多くの情報を処理できる: データ化されている情報を、コンピュータはいとも簡単に集計してくれます。
手作業で数値を拾って集計するよりも、断然に短い時間で計算することができます。

・持ち運びしやすい: 情報はデータにすることで、驚くほどコンパクトになります。
様々な情報をデータ化しておくことで、省スペースに保管しやすく、なおかつ、持ち歩きやすくなります。

・加工しやすい: データは自由に加工することができます。
一つのデータを様々に並び替え、絞り込み、集計し、様々な用途の帳票を作成することもできます。

・共有しやすい: 情報がデータ化されると、
地理的な制約、時間的な制約を超えて、より多くの人と、多様な形でコミュニケーションできるようになります。
組織内での情報の共有、協力会社との情報の共有など、今までよりも密接にコミュニケーションしやすくなります。

このように、データは経営の質・精度の向上に活かすことができるものです。
ただし、使わなければ、どれだけせっせと集めても無用の長物。無価値。
経営者の「見たい」という意思の存在が、それを活かす大前提なんですね。